「今の自分を築いてくれた英国留学」

上田 雅子
(2003−2004年度奨学生)



1. 夢の実現

2003−2004年度ロータリー財団国際親善奨学生として英国バースでの留学を終えて帰国した私は、現在、都内にある財団法人国際開発救援財団でプログラム・オフィサーとして勤務している。プログラム・オフィサーとしての私の業務は、20年近く内戦下にあったスリランカ北部ジャフナにおける内戦復興開発プロジェクトのマネジメント。ジャフナの人々は戦火に晒され長期間避難民生活を強いられてきたにも関わらず、前向きで明るい。自分の故郷の復興に意欲的に取り組む彼らと働くことは、学生時代からずっと国際協力の仕事を目指してきた自分にとって何よりの喜びだ。この学生時代の夢を現実に近づけてくれたものが、ロータリー財団国際親善奨学生として学んだ英国での1年間、その後のバングラデシュでの調査経験であった。更に、留学中における様々な国籍の人との交わりは、私に「異文化を尊重し異文化から学ぶ」姿勢を体得させた。これが、現在異文化で働く自分にとって掛替えのない財産となっている。


2. 英国生活への第一歩とロータリアンとの交流

 2003年9月、私は希望を胸いっぱいにロンドンヒースロー空港に降り立った。それを花束とチョコレートで迎えてくれたのが、ホストロータリークラブの留学生カウンセラー夫妻。それから大学院のコースが始まるまでの2週間をカウンセラー夫妻の家で過ごし、ホストロータリークラブの集まりにも何度も顔を出した。ホストロータリークラブのロータリアンは、皆とても陽気でオープン。来日経験者も何人かいた為、すぐに打ち解けた。
ロータリアンと交流を重ねる度に私の注意を引いたのが、彼らのチャリティーへの熱心さである。国内から海外の問題まで幅広い関心を持ち、クラブ対抗のスキットル(英国のボーリングの様なゲーム)からクリスマスパーティーまで様々な機会を利用してチャリティー活動を行っている姿勢には強く感心した。私が親交を深めたロータリアンの多くは英国、特にその文化に強い誇りを持っている。そういった誇りを大切にしながら、決して排他的にはならず、異文化が抱える問題にも関心を寄せ、それを学ぼう、支援が必要とされているところには支援の手を伸ばそうという姿勢に共感した。


3. 大学院生活の始まり

 2003年10月初め、バース大学国際開発学修士課程コースの学生としての私の生活が始まった。フラットメイトは陽気なインド人と中国人、26人のコースメイトの半数が留学生という国際的な環境の中で開発学の基礎から応用までを学んだ。コース修了後には国際開発プロジェクトのマネジメントに関わる仕事に就きたいとの目標から、開発理論に限らず、マネジメント手法に関わる実践的な授業も積極的に履修していった。大学院での学びの場はコースのみに限られていない。外部講師を招いたセミナーから人権映画鑑賞会、友達とのカフェでの議論からフラットメイトとのディナーまで生活の全ての瞬間が学びの場であった。私のコースは、学生の視点・意見・経験を尊重する講師陣にも恵まれていた。彼らからは、「学ぶこと」とは人から一方的に教わることではなく、自分自身で考え、時には議論を戦わせ、自分なりの意見を形成していく過程であることを学んだ。


4. 国境・宗教を超えた親友に支えられて
 
大学院生活は、楽しいことばかりではない。課題のレポートが思うように進まず悩むこともあった。準備して臨んだ発表が上手くいかず、落ち込むこともあった。そんな時いつもそばにいて励ましてくれたのが親友たちであった。バースでの私の親友は、ヒンズー教のインド人、キリスト教のシンガポール人、ベジタリアンの英国人、そしてイスラム教のパレスチナ−ヨルダン人。私のバースでの生活は彼女たちの存在なくしては語れない。文化や信仰を異にする彼女たちとは、時には意見のぶつかり合うこともあった。時には以外な共通点を発見してお互いをより近くに感じた。彼女たちとのこうしたやり取りの中で、私は異文化を学ぶ喜び・大切さを体得していった。


5. バングラデシュの農村部に入って

支援地の子どもたち

 

支援先の病院の一角

 

起工式

 私が在籍したコースは、希望する学生に

海外での調査経験を奨励していた。私は、

学習した理論・手法を現場で実践すること

を目標に、この機会を利用してバングラデ

シュの農村部で調査活動を行った。調査

の目的は、農村部で働く既婚女性の福利

について情報収集・分析をすること。現地

の同僚に支えられながら、貧困層の女性

を中心に聞取り調査を行った。

 調査対象の女性たちは、私が村に入る

たびにお菓子を振る舞い歓迎してくれた。

私の周りに集まってきて、彼女たちが子ど

もに託す夢や希望を語ってくれた。私のシ

ャルワカミーズ(バングラデシュ女性の伝

統服)の着方がきちんとしていない、と正し

てくれた。彼女たちとの触れ合いを通し、

私は、それまで机上で学んだ理論や手法

を中心に平面的に解釈してきた国際開発

というものが、「人と人との交流」という立

体感を持ったものとして理解できるようにな

った。この体験が、キャリアとして国際開発

に関わっていきたいという私の希望を一層

強いものにした。



 
6. 夢の実現は新たな出発点

 英国での充実した1年間、その後のバングラデシュでの調査を終了した私は、2005年6月から現職に就いている。感情を持ち利害を異にする様々な人が関わるプロジェクトをマネジメントすることは、容易ではない。特に、経験の浅い私は様々なチャレンジに直面する。

 ロータリー財団国際親善奨学生として過した英国での1年間は、今の私を築き、国際協力の仕事に就くという夢の実現の基盤となってくれた。その夢に到達した私は、今、国際協力に長期的に関わっていく為に開発マネジメントの経験を積む、という新たな出発点に立ちスタートを切ったばかりだ。